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青森地方裁判所 昭和45年(わ)50号 判決

本籍

青森市大字大野字北片岡一七七番地

住居

同 市中央一丁目五番一〇号

会社役員

神勲

昭和九年五月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官打田等出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月および罰金二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、養父神彦太郎が青森市中央一丁目五番一〇号において「神漁網店」の名称で営んでいた漁網ロープ等の漁業用資材の販売業の事業専従者としてその業務全般を統括していたものであるが、神徳と共謀のうえ、右神彦太郎の業務に関し所得税を免れようと企て、売上を除外して簿外預金とする等の方法により所得を秘匿したうえ、定期預金、売掛金等の資産額を過少に計上した青色申告決算書を確定申告書に添付する不正手段により

第一、昭和四一年分の右神彦太郎の実際所得金額が一、二五七万九、九八六円あったのにかかわらず、昭和四二年三月一五日青森市本町一丁目六番地の五所在の所轄青森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一五九万一、五一一円であり、これに対する所得税額が一五万二、五〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって右神彦太郎の昭和四一年分の正規の所得税額五一七万五、五〇〇円との差額五〇二万三、〇〇〇円を納入期限に納付しないでほ脱し

第二、昭和四二年分の右神彦太郎の実際所得金額が二、三〇二万六、一七七円あったのにかかわらず、昭和四三年三月一五日前記青森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三四〇万一、七八〇円であり、これに対する所得税額が六五万六、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、更に同月一九日所得金額が三八四万一、八四四円でこれに対する所得税額は八一万六、四〇〇円である旨の虚偽の修正申告書を提出し、もって右神彦太郎の昭和四二年分の正規の所得税額一、〇九五万一、二〇〇円との差額一、〇一三万四、八〇〇円を納入期限に納付しないでほ脱し

第三、昭和四三年分の右神彦太郎の実際所得金額が三、一三八万五、二六七円あったのにかかわらず、昭和四四年三月一四日前記青森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三二万四、五四七円であり、これに対する所得税額が九八万二、一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって右神彦太郎の昭和四三年分の正規の所得税額一、五九五万四、七〇〇円との差額一、四九七万二、六〇〇円を納入期限に納付しないでほ脱したものである。

(証拠の標目)

判示各事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書二通および同人の収税官吏に対する質問てん末書八通、上申書二通

一、神徳の検察官に対する供述調書一通および同人の収税官吏に対する質問てん末書一五通、上申書四通

一、小倉トシヱ、今慶の検察官に対する供述調書各一通

一、収税官吏作成の「脱税額計算書説明資料」と題する書面

-判示第一ないし判示第三の各事業年度に相応する各説明資料参照(特に実際所得額および申告所得額ならびに右各所得額算出にいたる経緯については、右各事業年度別の修正貸借対照表および修正収益計算書の記載による)

一、収税官吏作成の簿外預金、海外預金利息調査書と題する書面

一、収税官吏作成の「脱税額計算書の調査額計算方法について」と題する書面

-各事業年度の前記実際所得額から法定の控除額を差引き、ほ脱税額を算出したもので、その計算根拠を所得税法等の各関係法令により示したもの

判示第一の事実について

一、収税官吏作成の昭和四一年分の脱税額計算書

一、収税官吏作成の昭和四一年分の所得税の修正申告書の謄本

判示第二の事実について

一、収税官吏作成の昭和四二年分の脱税額計算書

一、収税官吏作成の昭和四二年分の所得税の修正申告書の謄本

判示第三の事実について

一、収税官吏作成の昭和四三年分の脱税額計算書

一、収税官吏作成の昭和四三年分の所得税の修正申告書の謄本

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為は所得税法第二三八条第一項刑法第六〇条にそれぞれ該当するところ、本件の書状について考察すると、被告人は判示のように神漁商店の実質的経営者として 徳と共媒のうえ本件所為に及んだもので、実際に経理を扱っていた神徳も本件に加担しているという意味において被告人のみ責められない面もあるが、しかし不正行為の内容および実際所得額と申告所得額の差額の大きいこと、かなり長期にわたって脱税行為をくり返していたことなど悪質な面も見受けられる。現在までほ脱額、加算税、地方税など約七、〇〇〇万円あまりを納付しているのであるが、なお相当の刑法を免がれない。以上の点を考慮し所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、判示各所為は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法第四七条本文第一〇条により犯情最も重いと認める判示第三の罪に法定の加重をし、罰金刑については同法第四八条第二項により各罪の罰金合計額の範囲内において被告人を懲役八月および罰金二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、懲役刑については情状により同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一雄)

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